鎌倉・建長寺(けんちょうじ)の門前で味わう「本物のけんちん汁」

鎌倉・建長寺(けんちょうじ)の門前で味わう「本物のけんちん汁」

根菜たっぷりのけんちん汁。全国的におなじみの家庭料理ですが「具材は何?」「どんな味付けが正しい?」など、曖昧な部分もあります。

なかには「豚汁とどこが違うの?」という方もいるかもしれません。今回は、けんちん汁の歴史とおいしいつくり方を紹介します!

けんちん汁の歴史

けんちん汁が生まれた場所は、鎌倉の建長寺(けんちょうじ)。鎌倉五山第一位の寺格を誇る臨済宗建長寺派の大本山で、今から750年前に鎌倉幕府五代執権・北条時頼が建立した、日本初の禅宗寺院です。現代風にいうと国立の禅大学のようなもの。多数の人々が学び、生活してきた由緒正しきお寺なのです。

鎌倉の建長寺(けんちょうじ)

建長寺の開山時、初代の和尚さんとして迎えられたのは中国の高僧・蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)でした。中国人でありながら日本の禅を興した功労者として知られ、日本初の禅師(禅の師匠)の号も賜っています。

けんちん汁は、蘭渓道隆によって中国から伝来した精進料理です。調理の最初に野菜をごま油で炒めるのは中国的ですし、豚肉はもちろん鰹だしすら使わないのも精進料理だから当然です。

全国に広まったのは、建長寺で修業した僧侶が地方に派遣される際、各地に伝えたため。地方ごとに味付けが工夫され、味噌仕立てのけんちん汁もあります。

歴史ある精進料理。そう聞くと「自分が今まで食べていたけんちん汁とは違うのかな?」という好奇心がわいてきます。じつは、建長寺の門前にある『禅茶寮 点心庵』では建長寺直伝のけんちん汁が食べられます。

この「伝承 けんちん汁」が想像をはるかにこえる味わいなのです! 塩むすびとの組みあわせが最高においしくて、ランチとして一口目を食べたときから「あぁ、夕飯もこれが食べたい」と思ったくらいです。

野菜のうまみとごま油の香りが全体に行き渡り、一つひとつの具材もすべて、しみじみおいしいです。

精進料理というと「修業の一環だから、味は二の次なのかな」と思い込んでいました。が、大鍋を使い、食材のうまみを活かしきる方法で丁寧に調理されたものなのですから、おいしくないわけがないですよね。

点心庵のけんちん汁はその手法を直接教わったものなので、ここで味わえば「本物のけんちん汁」を食べたことになると思います。

肉も魚も入っていませんが、小学生男子たちも「おいしい、おいしい」ととても気に入ったようでした。

点心庵には素敵なお庭もあるので、ぜひぜひ建長寺に行くついでに立ち寄って、本物のけんちん汁を味わってみてください!

けんちん汁の作り方

自宅でも、けんちん汁をおいしくつくってみたいですよね。材料は大根、にんじん、ごぼう、れんこんなどの根菜類と、木綿豆腐。だしは干し椎茸と昆布です。木綿豆腐はしっかり水を切ってから使いましょう。

適当な大きさに切った野菜は、まずごま油でじっくり炒めてうまみを引き出します。ここに昆布と椎茸で取った「精進だし」を入れて煮込み、野菜から出たあくは丁寧に除きます。野菜が煮えたら醤油(もしくは味噌)で味付けをし、豆腐を手でほぐしながら加えます。豆腐が煮えたら出来上がり。

くずした豆腐を入れる理由にも建長寺らしい逸話が残っています。あるとき精進料理をつくっていた修行僧が、豆腐をあやまって落としてしまいました。それを見ていた開山和尚さま(蘭渓道隆)がその豆腐を丁寧に拾い集めて洗い、調理していた汁の中に入れたのだそうです。落とした豆腐も活かすということから、建長寺のけんちん汁は今でもくずして入れるのです。

わが家でも、けんちん汁の豆腐は手でくずして入れるようにしています。そのほうが味もしみこみますしね。

おいしさのコツはごま油でじっくり炒めること、そしてなるべく大鍋でたっぷりつくること、でしょうか。塩むすびとたくあんを添えればこれ以上ないごちそうです。

禅には「世の中にゴミはない」という思想があるそうです。ほかの料理で余った野菜や皮も余すところなく使い、何も捨てずにおいしくいただく。現代でいう「フードロス削減」を何百年も前から自然に実践し、おいしく味わう手法を編み出してきたのですね。

けんちん汁をきっかけに、中国由来のおいしい精進料理に興味がわいてきたので、図書館で借りたり中古で買ったりして、本も何冊か読んでみました。皆さんも、ちょっとつくってみてはいかがでしょう?

2022.03.18 11:10
2022.03.18 11:11
フード・ドリンク
鎌倉けんちん汁精進料理

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