越中富山の薬売り文化を今に伝える「越中反魂丹(えっちゅうはんごんたん)」

越中富山の薬売り文化を今に伝える「越中反魂丹(えっちゅうはんごんたん)」

薬局やドラッグストアが全国に増える前、多くの家庭では、薬屋さんが常備薬の入った薬箱を各家庭に配置し、定期的に訪問して使った分を後で精算(薬の補充と集金)する「置き薬(配置薬)」を利用していました。

これは「先用後利(せんようこうり)」という販売形式で、江戸時代中ごろに始まり、「富山の薬売り」として全国に広まっていきました。

富山の薬売りの原点といえば、江戸時代に一世を風靡した和漢薬「反魂丹(はんごんたん)」。富山市にある「池田屋安兵衛商店」は、戦後まもなく薬の製造をはじめ、反魂丹を現代の人々にも通用する新しい形の和漢薬として復活させた老舗です。

越中富山の薬売り文化を今に伝えるこの店を訪ね、池田安隆社長にお話をお聞きしてきました。

「昔、家に置き薬があった」「薬屋さんが来ていたのを思い出す」という方も多いと思いますが、このシステムはいつごろ家庭に広まっていったのでしょうか。

「江戸時代、一般人が医者などにかかれない状況のなか、先用後利は画期的なシステムでした。このころは町の大店や庄屋さんなどの家に出入りしており、一般の家庭に広まったのは明治になってからではないかと思います」

こちらが、江戸時代から続く富山を代表する胃腸薬「越中反魂丹(えっちゅうはんごんたん)」。

その昔、江戸城内で腹痛に苦しむ大名に、その場に居合わせた富山藩主・前田正甫が携帯していた反魂丹を与えたところ、たちどころに回復したのをきっかけに富山の薬が全国に広まったといわれています。

オウレン、センブリなど苦い生薬と、「熊の胆」の主成分を配合し、飲みすぎ・食べすぎによる胃腸障害、ストレスからくる胃腸障害などに効果を発揮するそうです。

ついつい飲みすぎ・食べすぎてしまう旅行中に携帯するのもいいでしょう。

池田屋安兵衛商店の店舗は昭和21年(1946年)に再建されたもので、昭和20年に空襲で街のほとんどが被害にあっている富山市において最も古い木造建築物のひとつ。

かつての生薬倉庫や移住空間を吹き抜けにした店内は明るく広々としていて、国内外から観光客が来店するそうです。

池田屋安兵衛商店は和漢薬・漢方薬を製造するメーカーであり、店舗では直販もしています。店内では、江戸時代から受け継がれている対面販売「座売り」も行っています。

「専門の薬剤師や登録販売者が、相談コーナーで対面相談を行っています。症状をお聞きし、自社製品を含めさまざまな漢方薬・和漢薬のなかから最適な薬をおえらびします。ご希望によって、薬剤師が煎じ薬も調合します」

体の不調、気になる症状がある方は、ここでオリジナルの薬を処方してもらい、漢方薬・和漢薬の効果を試してみるのもいいでしょう。

店内には、明治~昭和初期に使われていたという薬の看板がさりげなく飾られています。

「今治水(こんじすい)」は"今、治る歯くすり"として1898年に発売され、現在もある有名な歯痛薬。貴重な看板コレクションを見るのも楽しみのひとつです。

こちらは実際に使われていた薬を製造する道具。富山の薬づくりの歴史がわかる展示物も見どころです。

店の中央には、約20年前まで現役で使われていたという手動式の製丸機があり、「丸薬製造体験」ができます(無料・個人の場合は予約不要)。

「丸薬づくりの実演を行っており、工程の最後の『丸くするところ』を体験できます。店先でやっていることなので、体験は数分程度。年齢国籍問わず喜んでいただいています」

熟練の職人さんのようにきれいな丸薬にするのは難しいですが、実際に薬をつくる楽しさを味わえます。

「越中反魂丹」のほかに、池田屋安兵衛商店が製造する代表的な和漢薬を教えていただきました。

こちらは「いけだや通じ丸」という便秘の薬。4種の生薬をバランスよく配合し、おなかを痛めずスムーズなお通じが期待できるそうです。

こちらは8種の生薬からつくられている「八味丸(はちみがん)」。老化防止、老化改善の妙薬と言われおり、中高年になると出てくる冷えやトイレが近くなる症状におすすめだそうです。

富山で製造されている常備薬はカラフルでレトロなパッケージ

また、富山で製造されている常備薬は、カラフルでレトロなパッケージが話題になっています。

「富山には古くから製薬会社が多く、包装資材をつくる会社も多く存在します。昔の印刷会社には専属の絵かきさん(今のデザイナー)がいて、わかりやすくて楽しいパッケージの絵を描いていました。現存するトンプク(2~3錠入りの薬)のほとんどは、昔からデザインが変わっていません」

痛みに効く「ズバリ」「ピタリン」「ケロリン」、解熱鎮痛剤「アスナオール」、おなかに効く「赤玉はら薬」などネーミングもユニークでインパクト十分。コレクションしたくなるかわいらしさです。

店舗2階はかつて薬を製造する作業場だったそうですが、現在は薬膳レストラン「健康膳 薬都」があり、黒米の山菜おこわをメインとするコース料理などを楽しめます。

現在も受け継がれている和漢薬・漢方薬の素晴らしさを知り、富山の薬売り文化の歴史を体感できる池田屋安兵衛商店。

富山駅周辺には、ほかにも薬に関わるスポットがあります。おうち時間に考える未来の旅行計画のひとつに、"薬都・富山を巡る旅"を入れてみてはいかがでしょうか。

2020.07.30 14:16
2021.09.17 12:34
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